2025/06/19

7人3時間¥4,000
くずの葉のもり、と呼ばれる処がある。
天隠郡、寒月郷に接する其の土地は、森というほどに鬱蒼としておらず、杜というほどに静謐でもなかった。
謂われに縁れば、人の男と番って子を産んだ女狐から採った名だそうな。
実際に多くの狐が棲み、郷に暮らす者には狐釣りを生業とするのも多かった。
そう聴けば、もりの薄闇からは只ならぬ気配が放たれているようにも思えた。
此処には、五族協和の思想も、敗戦の歴史観も、なんの拘りもない。
二十世紀も半ばとなっても、昔と変わらぬ暮らしが、
いや、変わりようもない人の業苦が、確かに息づいているのだった。
だから、なのだろうか。だから、なのだろう──。
昭和二十六年、二月、故 大野木政嗣 七回忌の法要の席でのことだった。
#マダミスキネマ
制作:しゃみずい